まちこわたしが。 はじまりはじまり|まちだまちこ|note

それは代償

まちこわたしが

はじめまして。 こんにちは。 まちだまちこといいます。 東北の片田舎から東海の片田舎に引っ越してきて早二年。 まだこちらの日差しの強さに慣れない主婦です。 もっと平たく言うと、 友だちが一人もいなくて話し相手がいないからです。 田舎に引っ越しされたことのある方はおわかりいただけるとおもいますが、 田舎というのは、そこで生まれ育った場合をのぞいて友だちを非常につくりにくいところ。 右をみても左をみても、山かイオンか未就学児か年金を受給されている方で構成されている現代に遺された ガラパゴス地域なのです(大げさに言いました)。 さらにわたしは勤めていないので、同世代の友だちなど夢のまた夢。 『それってどーなん?』とおもっても、話し相手の不在から内側に蓄積されていくばかり。 まず一番に書きたいことがあるので、それは次のノートで。 つたないところもありますが、よろしくお願いします。

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まちこわたしが

ただイシュタルを抱き締めたまま身動ぎをしない男に、彼女もまた黙ったまま抱かれていた。 二人以外には誰もいない部屋の中、密着した相手の息づかいも静寂に溶けて聞こえないほどだ。 ただ、衣服越しに、骨にじんと響くような鼓動の音だけを辿って、イシュタルは目を閉じる。 「何をそんなに気にしているの」 「…君こそ、どうしてそんなに落ち着いていられるんだい」 ぽん、と背をたたいたイシュタルの手に反応した声は、聞く限りでは落ち着いているように思えた。 出会った頃より幾分か低くなってはいるが、変わらず耳に心地好い。 「何をして欲しいのかしら? おまえを口汚くののしれば満足? それとも、おまえの民を八つ裂きにすればいい?」 十分な沈黙の後で、セリスはごめん、とおざなりにささやいた。 謝って欲しいわけではない。 セリスの言葉に気分を害したわけではないからだ。 かといって、彼の心を痛めた原因を恨むかと言えば、そうでもなかった。 何しろその原因は自分自身にあるのだ。 誰がなんと言おうと、イシュタルは確かに多くの者を傷つけ、殺めたのだし、イシュタルをののしる言葉ならばいくらでもわいて出るだろう。 むしろ、こんなものはまだかわいらしいと思えた。 イシュタルが生き続けるのを厭い、セリスの心を絡め取るのを厭い、闇夜に紛れて命を狙ってくる者すらいるこの時期に、そんな言葉ひとつでここまで落ち込むこともなかろうに。 幼子をあやすような仕草で、イシュタルは彼の背中を撫でた。 「いいのよ。 わたしは、子供を手招いて連れ去り、殺す、怖い魔女。 間違ってはいないのだから。 今更言われたところで、どうということでもないでしょう」 「…本当にそう思っているのかい?」 「そうよ。 生き続けると決めた時に、私は覚悟していたわ。 死を免れる代わりに与えられる罰ならば、どのようなものでも甘んじて受けようと」 彼がここに来る時の定番の装いである、闇に溶ける黒い外套や、硬い革手袋の感触を、肌や背中で感じ取りながら、イシュタルは冷えたそれらに自分の体温を分け与えようと寄り添った。 肉体ばかりでなく、疲れ果てて冷え切っているだろう心も、暖められるように。 かつての彼のように。 イシュタルの心もろとも命を両手ですくい上げ愛した、聖なる光のように。 彼ほど、うまくはできなくても。 「…わたしは、魔女のままでいよう。 わたしという闇と、おまえという光とが、ともに民の心に、悲しみと怒りの行き場と、それらを昇華する安寧の世界を与えるというのなら、それは光栄で、幸福なことよ。 おまえの作る世界の端に、わたしという存在が在り続けるためなら、わたしは自ら魔女の名を拾い上げて、頭から被るでしょう」 「……」 「そのくらいのこと、…今更、どうということもないこと。 でしょう?」 首を傾いだイシュタルに、だが、セリスははっきりとした答えを返そうとはしない。 引き裂かれた心を繋ぎ合わせ、冥府に落ちようとしていた命を抱え、忠誠を誓った主まで救った男。 これ以上何を望んでも罰が当たるだろう。 だが彼は、彼自身までイシュタルに差し出した。 そして、その幸福を上回る不幸など、あるはずもないのに。 (わたしにそれを与えた男こそが、何も知らないなんて、皮肉ね) だが、わざわざそれを教えてやることもない。 イシュタルは唇にひっそりと笑みを浮かべ、セリスの肩口に頭を預けた。 「おまえが痛いというのなら、その痛みは、おまえがわたしを手に入れた、その代償とでも思えばいいのよ」 「…イシュタル」 その声を聞いて、イシュタルは満足感に身をゆだねた。 「やっと呼んだわね」 安堵と昂揚を半々に、息を落とすようにイシュタルは呟いた。 冬の寒さに冷えていた来訪者の体は、もうすっかり温まっていて、おそらく外套など必要ないだろうが、しかしイシュタルを一瞬でも離す気はないようだ。 むしろ強く抱き締められて、イシュタルは、時を経てずいぶんと逞しくなった男の体に、自らも擦り寄った。 心はまだ寒いのかもしれない。 もしもそこに触れられるのなら、それこそ、彼の心をとらえて離さないのにと、ほんの少しだけ、肉体という檻を疎ましく思う。 だが同時に、肉体が触れあうことで生まれるものが、イシュタルに心の底からの幸せをもたらしもした。 (魔女だと、そう、いくらでも呼べばいい。 わたしはそのたび、この男のぬくもりと愛を知るのだから) ふと目を開くと、イシュタルの長い銀髪が、彼の青い髪と混じるように絡まって、宵闇の色に輝いていた。 3 まちこ わたしがおまえを手に入れた代償がこの束縛と苦痛なら、おまえもわたしを手に入れた代償を払えばいい。 [PR].

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ただイシュタルを抱き締めたまま身動ぎをしない男に、彼女もまた黙ったまま抱かれていた。 二人以外には誰もいない部屋の中、密着した相手の息づかいも静寂に溶けて聞こえないほどだ。 ただ、衣服越しに、骨にじんと響くような鼓動の音だけを辿って、イシュタルは目を閉じる。 「何をそんなに気にしているの」 「…君こそ、どうしてそんなに落ち着いていられるんだい」 ぽん、と背をたたいたイシュタルの手に反応した声は、聞く限りでは落ち着いているように思えた。 出会った頃より幾分か低くなってはいるが、変わらず耳に心地好い。 「何をして欲しいのかしら? おまえを口汚くののしれば満足? それとも、おまえの民を八つ裂きにすればいい?」 十分な沈黙の後で、セリスはごめん、とおざなりにささやいた。 謝って欲しいわけではない。 セリスの言葉に気分を害したわけではないからだ。 かといって、彼の心を痛めた原因を恨むかと言えば、そうでもなかった。 何しろその原因は自分自身にあるのだ。 誰がなんと言おうと、イシュタルは確かに多くの者を傷つけ、殺めたのだし、イシュタルをののしる言葉ならばいくらでもわいて出るだろう。 むしろ、こんなものはまだかわいらしいと思えた。 イシュタルが生き続けるのを厭い、セリスの心を絡め取るのを厭い、闇夜に紛れて命を狙ってくる者すらいるこの時期に、そんな言葉ひとつでここまで落ち込むこともなかろうに。 幼子をあやすような仕草で、イシュタルは彼の背中を撫でた。 「いいのよ。 わたしは、子供を手招いて連れ去り、殺す、怖い魔女。 間違ってはいないのだから。 今更言われたところで、どうということでもないでしょう」 「…本当にそう思っているのかい?」 「そうよ。 生き続けると決めた時に、私は覚悟していたわ。 死を免れる代わりに与えられる罰ならば、どのようなものでも甘んじて受けようと」 彼がここに来る時の定番の装いである、闇に溶ける黒い外套や、硬い革手袋の感触を、肌や背中で感じ取りながら、イシュタルは冷えたそれらに自分の体温を分け与えようと寄り添った。 肉体ばかりでなく、疲れ果てて冷え切っているだろう心も、暖められるように。 かつての彼のように。 イシュタルの心もろとも命を両手ですくい上げ愛した、聖なる光のように。 彼ほど、うまくはできなくても。 「…わたしは、魔女のままでいよう。 わたしという闇と、おまえという光とが、ともに民の心に、悲しみと怒りの行き場と、それらを昇華する安寧の世界を与えるというのなら、それは光栄で、幸福なことよ。 おまえの作る世界の端に、わたしという存在が在り続けるためなら、わたしは自ら魔女の名を拾い上げて、頭から被るでしょう」 「……」 「そのくらいのこと、…今更、どうということもないこと。 でしょう?」 首を傾いだイシュタルに、だが、セリスははっきりとした答えを返そうとはしない。 引き裂かれた心を繋ぎ合わせ、冥府に落ちようとしていた命を抱え、忠誠を誓った主まで救った男。 これ以上何を望んでも罰が当たるだろう。 だが彼は、彼自身までイシュタルに差し出した。 そして、その幸福を上回る不幸など、あるはずもないのに。 (わたしにそれを与えた男こそが、何も知らないなんて、皮肉ね) だが、わざわざそれを教えてやることもない。 イシュタルは唇にひっそりと笑みを浮かべ、セリスの肩口に頭を預けた。 「おまえが痛いというのなら、その痛みは、おまえがわたしを手に入れた、その代償とでも思えばいいのよ」 「…イシュタル」 その声を聞いて、イシュタルは満足感に身をゆだねた。 「やっと呼んだわね」 安堵と昂揚を半々に、息を落とすようにイシュタルは呟いた。 冬の寒さに冷えていた来訪者の体は、もうすっかり温まっていて、おそらく外套など必要ないだろうが、しかしイシュタルを一瞬でも離す気はないようだ。 むしろ強く抱き締められて、イシュタルは、時を経てずいぶんと逞しくなった男の体に、自らも擦り寄った。 心はまだ寒いのかもしれない。 もしもそこに触れられるのなら、それこそ、彼の心をとらえて離さないのにと、ほんの少しだけ、肉体という檻を疎ましく思う。 だが同時に、肉体が触れあうことで生まれるものが、イシュタルに心の底からの幸せをもたらしもした。 (魔女だと、そう、いくらでも呼べばいい。 わたしはそのたび、この男のぬくもりと愛を知るのだから) ふと目を開くと、イシュタルの長い銀髪が、彼の青い髪と混じるように絡まって、宵闇の色に輝いていた。 3 まちこ わたしがおまえを手に入れた代償がこの束縛と苦痛なら、おまえもわたしを手に入れた代償を払えばいい。 [PR].

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